2022年西念寺夏季永代経 法話 本多雅人氏(葛飾区蓮光寺)

絵本「てぶくろ」の話

4月にも紹介したんですけど、ウクライナから学ぶことが多いですね。「てぶくろ」と言う薄い絵本があります。

ウクライナ民話『てぶくろ』
西念寺にもありますのでごらんください。

お爺さんが犬と散歩して、手袋を落とすんです。冬で寒いわけです。そこで、最初は小さいネズミが手袋に入る。カエルが入る。どんどんどんどん入っていって、そのうちキツネやオオカミ、普通入らないでしょ。でも、童話だから。手袋がどんどんどんどんでかくなっていって、イノシシは入るは、最後はクマも入って、みんなで温め合ってる。

みんな “いのち”が重なり合ってるから、みんなで共存して温め合おうねって。これが本当の願いなんだよってことを書いてある。お爺さんが拾いに来ると、手袋から落ちて、動物たちはそれぞれの家に帰って行った。答えは言わないんだけれども、みんなそれぞれが尊くて、比べる必要もない、いろんな動物たちがみんなで温め合って共存して生きる。

これは仏教的な「いのち」観でね、どんな “いのち”も重なり合ってる。だから、この動物の一つでも入れないで死んでしまうんだったらば、 “いのち”の繋がりが切断されるわけです。

ところで、この「てぶくろ」を題材にして、ロシアの国境に近い、今は陥落しましたけれど、マリウポリでこの「てぶくろ」の壁画を描いた日本人(ミヤザキケンスケ氏)がいます。彼は2017年にマリウポリでこの「てぶくろ」に出遇って壁画を作ったのですが、彼が書いた文章をちょっと読んでみます。

『マリウポリでの壁画の題材を決めるにあたり、私はウクライナの絵本「てぶくろ」を思いつきました。幼少の頃読んだ絵本で「平和と共存」を表現するのにピッタリだと思ったからです。(中略)手袋の中で場所を分けあいながら暖をとる姿が微笑ましく、大好きなお話です。だから私はマリウポリでこれを題材にして壁画を作りました』。

ミヤザキケンスケ氏とウクライナの国内避難民等の子ども達が共同でマリウポリ市第68学校に描いた壁画
(ウクライナ大使館のホームページより)

ここに何が入ってるかと言うとね、壁画の絵の中には世界中の人が入ってるんですよ。民族衣装を着て。ところが、この写真を見てください。壁に穴があいてるでしょ。ロシアの攻撃です。これを見てね、野心を持った人間がこういう繋がり合ってる世界の中に、こういうものを打ち込んでいる。僕は象徴的な絵になると思いますね。ただこれだけだったら、平和がいいねってことを書いてるだけだけれども、平和がいいと言ってる人間の世界の中に、やっぱり自我を持って野心を働かせると、 “いのち”の繋がりを平気で切ることができる。それが人間の恐ろしさなんです。

そういう意味では、ここに穴が開いているということは、象徴的だと思います。彼は「本当に現実は甘くない。悲しいことだ」と言ってます。だから、やっぱり繋がり合って、支え合って、一つの大きな大きな “いのち”の世界を作ってる。そのことが人間にとっても動物にとっても救いなんですよ。